日本の電子出版物の売り上げ構成比率は5.7%〜電子書籍市場の約8割をコミックが占める
2014年7月15日 / レポート
text: 中島由弘(Yoshihiro Nakajima)OnDeck編集委員
2014年7月15日
インプレスグループのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所では毎年、電子書籍の市場規模推計を発表している。さきごろ発表された昨年度(2013年度)の推計によれば、電子書籍市場規模は936億円、電子雑誌市場規模は77億円で、合計した電子出版市場規模は1013億円と、調査開始から初めて1000億円を突破したとしている。
ここでは発表されている資料などをもとに、日本の電子書籍市場の現状について、独自の分析を試みることにする。また、米国の電子書籍市場とも比較をして、日本の電子書籍市場の課題についても述べたい。
コミックを除く電子書籍の構成比率は4.3%にすぎない
日本の出版市場全体に対する電子書籍市場の構成比率はどのくらいになるのかを試算してみた。なお、ここでは異なった調査方法、調査期間による調査結果の組み合わせにより導くので、統計的には適切ではないことを前提にし、あえて市場イメージを具体化するための試みであることをお断りしておく。
図1の①では出版科学研究所が毎年1月に発表をしている日本の出版市場調査結果と、インプレス総合研究所による日本の電子出版市場調査結果を使っている。これによると、2013年のプリント版書籍市場は7851億円、プリント版雑誌市場は8972億円となっている。これらに電子書籍と電子雑誌の市場規模を合算すると、プリント版+電子版の書籍市場は8787億円、雑誌市場は9049億円となる。これを元にして、電子書籍と電子雑誌の構成比をみると、電子書籍は10.7%、電子雑誌は0.9%、電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版物では5.7%となる。
図1:日本の出版市場での電子書籍市場の構成比率(出典:出版指標年鑑<出版科学研究所>、電子書籍ビジネス調査報告書<インプレス総合研究所>)
本誌では、昨年もこの方法によるシミュレーションを行い「日本の電子書籍売り上げ構成比は8%」という趣旨の記事(http://on-deck.jp/archives/634)を掲載した。それと比較をすると、本年の電子書籍の構成比率は10.7%になるので、3ポイント弱の拡大がみられたともいえる。
だが、出版科学研究所の分類では、コミックタイトルのうち、約8割は雑誌に分類され、2割は書籍に分類されている。一方、インプレス総合研究所の分類ではコミックタイトルはすべて電子書籍に分類されている。そう考えると、昨年の試算はイメージを具体化するためのシミュレーションとしても、かなり乱暴な計算だった。
そこで、現状の課題をより明らかにするため、今年はインプレス総合研究所発行の「電子書籍ビジネス調査報告書2014」に掲載されている電子書籍のジャンル別の内訳(図2)を使って、電子書籍市場のうち、約8割に相当する731億円が電子コミックであるということと、さらにそのうちの8割に相当する585億円分が雑誌に分類されていると仮定して電子雑誌市場に按分すると、図1の②のように、出版科学研究所の発表するプリント版書籍市場規模7851億円に対応する電子書籍市場規模は351億円ではないかと考えた。一方で、出版科学研究所が発表するプリント版雑誌市場規模9049億円に対応する電子雑誌市場規模は667億円ではないかと考えた。
図2:電子書籍市場規模のジャンル別内訳(出典:電子書籍ビジネス調査報告書<インプレス総合研究所>)
その結果、日本の出版市場全体に対する電子書籍市場の構成比率は4.3%、電子雑誌市場の構成比率は6.9%という結果になる。つまり、日本の電子書籍市場はほとんどはコミックで構成されていて、米国の市場統計でいわれる一般書分野(文字を中心に表現されている出版物)での電子書籍構成比率が約20%だとする数字とは大きな開きがあり、日本の一般書分野での電子書籍普及はまだまだこれからだといえる。そもそも、従来のケータイキャリアの公式メニューで提供されていた電子コミックなどの市場がすでにあったため、それがスマートホン、eリーダーなどの新プラットホームに移行しながら、拡大をしているわけだ。
米国出版社の電子書籍売り上げ構成比
一方、米国の電子書籍市場における出版社の出荷総額(卸価格ベースで、小売価格ベースではないことに注意)はAAP(米国出版社協会)とBISG(ブックインダストリースタディーグループ)の発表によれば、約30億ドル(約3000億円)になり、出版市場全体における構成比は約20%となっている。出荷総額の成長率は対前年比で0%という衝撃的な発表ではあったが、市場に占める電子書籍の割合はすでに無視できないほどの規模になっている。特に、大手出版社の業績発表資料からわかる各出版社の売り上げ構成比率では30%を超えているところもあり、すでに大手の出版社では電子書籍が大きな売り上げの柱になっていて、経営に与える影響も大きくなっていることがわかる。
図3:米国の大手出版社の出版売り上げに対する電子書籍の売り上げ構成比(出典:各社の発表資料などをもとにOnDeck編集部が独自に作成)
出版各社にとってはこうした背景があり、しかも、その売り上げの多く(アシェットの場合は約60%と報じられた)をアマゾンに依存していることに対する警戒感がある。そのために、取引条件の交渉が難航していることで話題になっているアマゾンとアシェットのような状況や、大手の出版社が独自にオンラインでの販売を開始するような動きに象徴されているといえる。
一般書市場の拡大が今後の成長の鍵
日本では“コミックを除く書籍”という分野に限定すると、電子書籍の売上比率はまだまだ小さく、これからの成長の余地がある分野だといえる。特に、先行市場である米国では一般書分野で20%〜30%のシェアがあることを考えると、各出版社や電子書籍書店事業者からみると今後の注力すべき分野だ。
また、インプレス総合研究所は日本の電子書籍と電子雑誌の市場を2018年に3340億円と予測しているが、一般書分野での電子書籍が成長しなければ成し遂げられないものだと思う。
□参考資料
電子書籍ビジネス調査報告書2014(インプレス総合研究所)http://www.impressbm.co.jp/news/140624/ebook2014
■OnDeck weekly 2014年7月17日号掲載