[編集長コラム]印刷ではなく「製本」に価値あり
2015年6月25日 / 電子メディア雑感
先日、慶応大学の村井純先生の還暦祝いの会がありました。私は、村井先生の最初の著書の編集者だったことが縁で、以来、永いお付き合いをさせて頂いています。そこで、プレゼントとして、これまでの村井先生のインタビュー記事などを再編成した本を作って差し上げました。
インターネットマガジンの創刊号(1994年)の巻頭インタビューや書籍の記事など、レター判で56ページ。いまはPOD(プリント・オンデマンド)があるので1冊から作ることができ、コスト的にも問題なく作れます。せっかくなので、うちのADに嘆願し、表紙も特別に作ってもらい、上製本にし、見返しも付けてもらいました。
結果は、大好評でたいへん喜んで頂けました。パーティの檀上でお渡ししたのですが、その後、観客の方からも「最高のプレゼントだ」「さすがインプレス」などのお褒めの言葉を頂け、ありがたく、うれしいひと時となりました。
実は、インターネットマガジンは2006年の休刊後、バックナンバーをすべてPDFで無料公開しています。なので、見ようと思えば、今回の本に収録した記事のほとんどは誰でもいつでも閲覧可能なのです。このパーティに集まった方々は、そのことをご存じの方も多かったはず。しかし、今回はそれとはまったく別の評価を頂けたようです。
今回のことで、コンテンツ(この場合はPDF)の価値とそれを包んでいるメディア(この場合は紙の本)の価値は別のものだということを、改めてリアルに認識できました。特に今回は、上製本という製本方式にしたことが功を奏し、モノとしての質感、存在感が向上しているのだと思います。
いまや1万円のカラープリンタでも写真品質で印刷ができ、オフィスのコピー機は高速で大量の印刷をこなします。つまり印刷に関しては、すでに個人にも開かれていてコモディティ化しています。しかし、製本してくれる機械は普通には手に入らないし、個人では無理です。
一般に、本の製造では「印刷」に注目が集まりますが、モノとしての本の価値をより創造しているのは「製本」のほうでしょう。そしてこの価値は、電子出版が普及すればするほど、逆に際立ってくるように思えます。今後の出版ビジネスの1つのヒントになりそうです。
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インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信