[実証実験]出版社向けPOD流通サービスの使い方
2015年4月1日 / 実証実験レポート
先週発表したインプレスR&Dの出版社向けPOD流通サービスですが、持ち株会社であるインプレスホールディングスの株価を数日間にわたりストップ高にするインパクトがあったようです。OnDeck読者の皆さまは何度も聞いている話でもあり新しい印象はなかったようですが、投資家の注目を集めるサービスと認識されました。今回は、あらためて出版社にとってPODにどのような価値があるのか紹介します。
出版社にとってのメリット
出版社にとってPODを利用するメリットの第一として、必要部数をいつでも製造できるという点にあります。PODをうまく組み合わせることで、過剰製造を抑制できるため初版部数の適正化につなげられます。また、増刷分についても必要部数を都度製造できるため、余分な在庫を持つ必要がなくなるため、在庫コストの削減が期待できます。
また、PODで書籍を製造するということは、印刷費を変動原価に変えるという効果もあります。従来型の出版の場合、初回に大量部数を印刷するため初期投資型の原価が発生します。PODを活用することで初期費用を削減した出版、さらにアマゾンPODなどを利用すれば売れた分だけ原価を負担すればいいというビジネスモデルになるのです。
そのほか、PODは必要なときに必要な分だけ印刷しますので、内容に修正がある場合にも在庫などを気にすることなく、新しい版として印刷が可能です。このあたりは電子書籍と同じモデルといえるでしょう。
PODでできることを最大化しよう
このように出版社にとってメリットの大きいPODですが、いくつか課題があります。まず、PODで製造できる書籍の形態が限られています。例えば、アマゾンPODの場合、用紙はクリームとホワイトの2種類に限定されています。製本様式も同様で並製本(ペーパーバック)のみです。カバーを巻くこともできません。本文も1色のみで、2色刷りや4色カラーなどは現状は選べません。つまり、PODに適した書籍はまだまだ限られているのです。
また、判型も同様です。各社の印刷機と製本機により最小サイズと最大サイズは決まっています。アマゾンPODの場合、文庫本サイズの書籍は作れません。
多くの出版社は、こうした仕様上の制約があるため、PODに積極的に取り組んでいないのが現状です。これは正しい判断のようにおもえますが、自ら機会を逃しているともいえます。
実は今回このサービスを開始した最大の理由が、印刷書籍に対する潜在的なニーズが確認できたためです。一定数の需要がないため、増刷できない書籍は多くあります。こうした書籍は電子書籍化することで対応できる面もありますが、読者によっては印刷した書籍を求めている場合も多々あります。こうしたニーズに応えるための仕組みとして、1部からでも印刷・製本できるPODは非常に有効です。品質の違いを気にして機会損失を招くのではなく、異なる製品として出荷することで販売機会を得るのがいいということです。
PODは発展途上のサービス
PODにチャレンジした出版社に話を聞くと、PODで販売するまでにいろいろと苦労したという話をよく聞きます。PODの仕様上の制約にあわせたPDFファイルを作るのに苦労したであるとか、価格表示が入った表紙データを修正しなければいけないであるとか、書籍の厚みが底本とPODで異なるため、背表紙を作り直さなければいけないであるとか、さまざまです。
また、こうした苦労を乗り越えて納品してできあがったPOD書籍を見ると、意図しない印刷品質になってしまっており、修正してもらうのにも時間がかかってしまったということもよく聞きます。これらはPODというサービスがまだまだ発展途上段階にあるために起こっている問題といえるでしょう。
PODは出版社が抱えるさまざまな問題を解決する仕組みであるのは間違いありません。一方、サービスとしてのPODはまだまだ発展途上であり、使いこなすにはノウハウが必要です。
今回開始した出版社POD流通サービスは、こうした問題を解決するために提供するものです。「PODに興味はあるが、どこから手をつければいいかわからない」「少部数しか売れないPODにあまり手間はかけられない」「なんとなく面倒」などなど、いろいろな理由からPODに取り組まない出版社を支援したいというおもいから始めました。
インプレスR&DがPODビジネスをはじめてから3年以上たっているにもかかわらず、ほかの出版社はあまり参加していない。参加しづらい理由があるのであれば、誰かが解決すればいい。ありそうでなかったPOD流通支援サービスを始めたのは、そんなおもいからです。
初期契約料なし、初期負担もなし
出版社向けPOD流通サービスですが、初期契約料はゼロ円で始めています。販売する書籍単位での初期負担も、PODに適したPDFファイルを用意していただければ不要です。
あとは各ストアで販売し、売れた分だけ利益になります(PODの印刷・製本費は1部単位で発生します)。増刷しづらくなった書籍があれば、PODで販売すれば、少額でも売上が増えるという非常にシンプルなモデルです。販売マージンや印刷・製本費については、pod@nextpublishing.jp宛にお問い合わせください。
現時点では出版社に限定したサービスですが、ニーズがあれば出版社以外にも広げていきたいとおもっています。POD流通サービスに今後も注目してください。
編集部