[視点]PODビジネス 日本で出来るか

2015年2月12日 / 電子メディア雑感

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 先週、日本印刷技術協会(JAGAT)が主催するpage2015のパネルディスカッションでモデレータを務めてきました。テーマは「PODビジネス、日本で出来るか?」。パネラーは錦明印刷の黒岩氏、JAGAT理事の郡司氏、それに本誌の福浦副編集長でした。実はこのパネラー陣は、本誌117号~119号で紹介した米国ライトニングソース社の視察メンバーなのです。
 米国では、すでに本格稼働しているPOD(プリント・オンデマンド)ですが、日本ではまだうまく使えていない状況です。今回の主旨は、ライトニングソース社の実例を学びながら、日本の課題と進むべき道を考えようというものです。
 JAGATの会員は印刷会社が中心なので、ディスカッションの内外でPODについての具体的なお話がいろいろ聞けました。たとえば、「品質はすでにオフセットと同等(あるものは凌駕している)」、「写真の諧調もきれいになってきた」、「カラーも品質的に問題ないが、まだコストが高い」、「ペーパーバックなら、500部くらいまではPODのほうが安い」、「カバー、帯、スリップなどの付き物があると手作業となり、コスト高の要因になる」、「設備投資はしたがまだ儲かっていない」などでした。
 つまり、技術的・品質的には問題ないが、後はコストということでしょう。コストを解決するにはボリューム(量)が必要です。ライトニングソース社の場合は、イングラムという取次が親会社として運営することで、それを解決しています。日本も、印刷会社や出版社が個々で対応するだけでは、この壁を乗り越えられないという見解が出ていました。
 発注側の出版社の意識にも問題があるという意見も出ました。出版社は常に、既存のオフセット印刷を前提にしているとのことです。「(オフセットに比べて)まだ写真の品質が悪いのでは」、「(オフセットに比べて)製本の強度が弱いのでは」、「(オフセットに比べて)1部単価が高いのでは」など、現状からの品質低下を気にしている様子が伺えます。これは一見、よく分かる話ですが、この品質低下を恐れる意識がPODの普及を妨げているという見解です。
 ここからは私見ですが、そもそもPODが要望される背景は品質の問題ではなく、重版が出来ずに品切れになっている本を世に出すことにあるし、少部数の出版物を商品として成立させることにあると思っています。Digital Book World 2015の基調講演でセス・ゴードン氏が問いかけた「出版社の顧客は誰か」という設問がありましたが、それは少なくても取次や書店ではなく著者か読者でしょう。この両者にとって、品切れ問題の解決はとても利益があることです。
 すべての出版物が造本やデザインの付加価値で勝負しているわけではないと思います。本によっては、たとえ品質の後退があったとしても、これまでなかった本が手に入るという価値がそれを上回る場合があります。品質後退を伴いながらのイノベーションは、これまでにも沢山の事例があります。ケータイ小説しかり、音楽のmp3しかり、出版でも電算写植やDTPがそうでした。
 時代は品質向上より新たな体験のほうを選ぶことがあります。そのチャレンジが問われていることを再認識したイベントでした。
 

OnDeck編集長/インプレスR&D 発行人 井芹 昌信

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