[編集長コラム]電子出版での修正問題
2015年3月12日 / 電子メディア雑感
先週ネットで、電子出版における発行後の内容修正のことが話題になっていましたので、今回は修正についての話です。
紙での伝統的出版においては、内容の差異を「版」で区別し、同じ印刷ロットを「刷」で区別してきた経緯があります。たとえば「第1版 第2刷」は、最初に出た内容の、2回目の印刷ロットという意味になります。別の側面では、「版」は内容の同一性を保障するもので、「刷」は印刷品質(表現)の同一性を保障していると言うこともできます。おかげで読者は、同じ版・刷の本なら同一のものとして、引用する場合の出典根拠として利用することができるわけです。
この点の重要性については、前にこのコラムで、電子出版での安易な修正や悪意の修正が出版が本来持っている改ざん防止の機能を貶めてしまうのではないか、という指摘をしました。しかし、電子ゆえに修正が容易なことは事実で、正しく使えば紙の出版ではできない迅速な修正ができるのも事実です。
電子出版の修正では、伝統的出版に比べて以下のような利点があります。
・リフロー型では、組版はコンピュータが自動的にやってくれるので、マスター原稿を直すだけで済む。
・印刷工程がないので、その分早く、追加コストもかからない。
・物流工程がないので、その分早く、追加コストもかからない。
・修正ファイルをアップロードすれば、数日後には反映される。
・紙の本のように、旧版が市場に残ることもない。
・PODの場合も、ファイルを差し替えるだけなので電子書籍と同様(この点からもPODが電子出版であることが分かる)。
つまり、追加コストなしで修正ができてしまい、数日後には商品として市場に反映できることになります。
このことを積極的に利用すると、これまで書籍が苦手としてきた変化の激しいテーマでの出版も可能になります。弊社は日進月歩するIT関連情報を扱っていますが、たとえばソフトウェアのバージョンアップに合わせて修正していくことなどが可能になり、読者価値の向上が期待できます。さらに極端な例では、毎月、季節に合わせて表紙を変えることすらできてしまいます。これなどは、売上アップに貢献できそうです。
ただ、頻繁な修正は先に指摘したように、「その時の情報のスナップショットを記録として残す」という出版の本質的な機能を希釈化させる恐れがあることや、各々の読者が持っている本が少しずつ違うなどの混乱を招く恐れもあります。また、いつでも修正できるという甘えが、著者と出版社の間の緊張感を薄めさせることも予想されます。責了したはずの原稿で、何度も直しが発生するなどです。追加コストはゼロだとしても、業務工数は発生するので、いつでも直しが効くわけではないでしょう。
電子出版における修正は、対象としているテーマ、修正の重要性、業務工数などを勘案して決めていくことになるでしょう。その際に最も考慮しなければならないのは、それで読者の価値が向上するかという点だと思えます。それが同時に売上向上にもつながるのでしょう。
OnDeck編集長/インプレスR&D 発行人 井芹 昌信