[編集長コラム]マスター原稿はお持ちですか?

2015年3月26日 / 電子メディア雑感

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 先週、ある事例から、やはりマスター原稿が大事だと思うことがありました。皆さんは、マスター原稿はお持ちでしょうか。
 マスター原稿とは、内容的な意味での最終原稿のことで、その後に二次利用する場合の元となる原稿のことです。マスター原稿の重要性は前から言われてきたことですが、これをきちんと管理できている出版現場はまだ少ないと聞いています。
 出版現場の多くでマスター原稿に当たるのは、InDesignなどのDTPソフトで作成したファイル(版下?)ではないでしょうか。DTPソフトでレイアウトしながら、同時に文字校正も行っているでしょうから、内容的な最終原稿もこのファイルになると思われます。ただし、DTPを社内でやっている場合はいいのですが、この作業を外の会社に委託している場合はちょっとやっかいです。なぜなら、このファイルの所有権が誰にあるかが明確ではないからです。たとえば、印刷を前提に印刷会社にお願いしているケースでは、ファイルの所有権は印刷会社にある場合が多いでしょう。このケースでは、マスター原稿は自分では持っていないということになってしまいます。
 かつてのように、印刷物が唯一の目的だった時代なら問題ありませんが、電子出版でも利用したい、またWebで公開したいなどの複数のメディアで利用しようとすると、とたんに問題が発覚します。つまり、再利用できないという問題です。
 OnDeckで、デジタルファーストを推奨している本質的理由はここにあります。デジタルファーストなら、最初にマスター原稿が作られ、その後の工程でEPUBにするか、PDFにするか、またはWebにするかを決められる利点があります。この方法は印刷書籍を前提にした伝統的方法に比べて、レイアウトなど表現の自由度が下がる弱点がありますが、最近のデジタルメディアへの展開ニーズを考えると、その利点が上回るケースが増えてきていることでしょう。
 ところで、米国の電子出版では「DAM」というキーワードがよく登場します。これは“Digital Asset Management”のことで、デジタルになったコンテンツをアセット(資産)として捉え、管理するということです。さらに「DAD」は、“Digital Asset Distribution”のことで、そのアセットを柔軟に流通させることを指しています。ここで重要なのは、「アセット(資産)」という概念が登場していることです。コンテンツを資産と捉えるのはすでにデジタル化が進んでいる音楽や映像業界からの流れですが、本もデジタルになったことで音楽や映像と同様に、何度でも利用していくという発想が出てきているのです。
 マスター原稿は、出版におけるアセットの具体的な形だと思います。出版が電子出版になるという本質的な意義は、原稿が1回限りの紙の本のためだけに存在するのではなく、アセットとしてあらゆるデジタルメディアに乗り換えられるという点にあるのではないかとさえ思えます。
 皆さん、マスター原稿を大事にしましょう。
 

OnDeck編集長/インプレスR&D 発行人 井芹 昌信

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