ベストセラーリストの役割が変化

2013年7月11日 / ニューススタンド

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text:林田陽子

米国の出版業界情報誌のPublishers Weeklyがセルフパブリッシングプラットフォーム大手のSmashwords社と提携して同社経由の電子書籍のベストセラーリストを提供開始すると発表した。売れ行きランキングは一般読者が読み物を選ぶためだけではなく、著作者側が売れ筋本の傾向や価格を調べて販売戦略を立てる上でも重要視されるようになった。

 本のベストセラーリストと言えば、New York Times紙のランキングが有名だ。これにランクインした作家という経歴は高く評価される。同紙は2011年から電子書籍のランキングも掲載開始した。
 週末の紙版に掲載されるランキングリストがWeb版に先に掲載される。フィクション、ノンフィクション、児童書、漫画などジャンル別に集計され、紙書籍、電子書籍別のほか両方を合わせたランキングも掲載されている。
 New York Times紙の電子書籍ランキングは、主要オンラインリテラーなどから収集する販売データに基づき独自に作成されていて、紙版ほど市場が確立されていないという理由で販売ルート別の重みづけは行わず、セルフパブリッシングは対象になっていない。
 一般向けのベストセラーリストは、USA Today紙やWall Street Journal紙も提供している。

DBWは価格重視の独自ランキング

 出版情報サイトのDigital Book Worldは昨年の夏から同サイト独自に作成したベストセラーランキングの提供を開始した。
 このランキングの特徴は、価格設定を販売戦略上重要な要素と考えて、価格と売り上げとの関係性を解明することを主眼と位置付けている点だ。電子書籍を0.00ドルから10.00ドル以上までの4つの価格帯に分けて、個別のランキングを作成している。リテラー上位5社(Kindle、Nook、Google、Kobo、Sony)のベストセラーを一週間単位で集計する。こうすることで、一日限定セールの影響を排除して、どの出版社が一番多く電子書籍を販売しているか、どのような売り方をしているか分析できるとしている。セルフパブリッシング本もランキングに含まれる。リテラーのマーケットシェアを推測して重みづけをしている。
 Digital Book Worldは電子書籍の最高価格に常に注目して、例えば、人気シリーズの新作販売に合わせて、前の巻を0.99ドルにしたためにある週の最高価格が下がった、といった詳細な分析をしている。最高価格帯は大手出版社の本が多く入るようだ。

人気本の傾向を企画に活かす

 Publishers Weekly誌は1872年創刊で、書店や図書館向けの新刊書の書評から始まって、各種業界情報を提供するようになった。その同誌は2010年に初めてセルフパブリッシング情報だけを提供するコーナーを新設。このリストもここで提供される。
 Smashwords社が主要リテラー経由で販売したセルフパブリッシング本の上位25点を毎月Publishers Weekly誌の紙/電子版で公開する。米国では2011年にセルフパブリッシングの電子書籍の刊行点数は9万点近くに到達。Smashwords社経由が約5割を占めた。同社は、自社のユーザー数は現在6万人超で、このリストを継続的に見続けることで、どのような傾向の本が売れているか、どれぐらいの価格で販売するとよいか検討できるとしている。
 Publishers Weekly誌は初回にランクインした25点中18点がロマンス系で、価格は最高で3.99ドル。一人で複数冊ランクインしている作家もいると分析。成功のヒントは「たくさんの本を書いて、安い価格で売ること」と指摘している。
 電子書籍の価格設定には諸説あって、価格を大幅に安くすれば必ず売り上げが増えるとも言い切れないようだ。個人作家はこのようなデータも参照して工夫を重ねることが必要とされている。

参考
Smashwords社のニュースリリース
http://blog.smashwords.com/2013/07/smashwords-and-publishers-weekly-launch.html
Publishers Weekly誌の公告ページ
http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/authors/pw-select/article/58012-smashwords-self-published-bestseller-list-may-2013.html

林田陽子:翻訳家、司書。1978年、慶應義塾大学文学部卒業。同大学日吉情報センター、日経マグロウヒル(現日経BP社)、アスキーに勤務。1986年より翻訳業に専念。2010年6月から、ジェリー・パーネル氏の「Computing at Chaos Manor」をScience Book Clubにおいて、Web閲覧方式とEPUBファイルダウンロード方式で販売中。

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