デジタルブックワールド2014報告:第1回 米国の出版業界はチェンジとチャレンジの年

2014年1月22日 / レポート

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text:OnDeck編集委員/中島由弘(Yoshihiro Nakajima)

今年も米国の電子書籍に関するコンファレンス「デジタルブックワールド2014」(主催:F+Wメディア社)が1月13日~15日まで米国ニューヨークで開催された。本誌では取材のチャンスを得られたので、今回から4回の連載で、その内容をレポートする。

参加人数は1000人近くに

 米国の電子書籍・電子出版に関するコンファレンスといえば、このデジタルブックワールド(DBW)コンファレンスのほか、オライリーメディア社が主催するツールズオブチェンジ(TOC)コンファレンスがよく知られている。
 DBWは出版業界向けに出版実務的な切り口のプログラム構成を特徴とし、TOCはデジタル技術やその応用(アプリケーションやサービス)を切り口としたプログラム構成が特徴としてすみ分けていた。しかし、TOCは2013年1月の開催をもって終了し、今年からはDBWのみとなった。そして、DBWにはTOCの主催者であったオライリーメディア社のティム・オライリー氏も登壇し、「TOCは電子出版・電子書籍というコンテンツ技術に着目してもらうためのもので、すでにその役割を終えた」と語った。
 2つのコンファレンスにこうした背景があってか、今年のDBWのプログラム構成は昨年までの出版業界の実務的な色彩から、TOCが取り組んでいた技術による出版業界や出版社の変革という部分にも踏み込んでいる。
 DBWコンファレンスの会場に用意された座席数はおよそ1000席で、最も参加者が集まる初日の基調講演ではその8割~9割が埋まっていたので、参加者数は約800人~900人と推測できる。また、展示スペースでの出店企業数は42社を数える。

子供向け市場と教科書市場が今後のホットトピックス

 コンファレンスプログラムのうち、本会期前日に行われる終日のワークショッププログラムとして、子供向け電子書籍市場と電子教科書市場に関するプログラムが設定されていた。これまでの米国電子書籍市場をリードしている分野は主にフィクションやノンフィクションといわれる分野だ。しかし、その市場成長率の鈍化が統計的にも指摘されていて、つぎの成長分野としてこの2つの話題を設定していると思われる。日本では子供向けの電子書籍市場はまだまだこれからの分野だが、電子教科書、特に高等教育における電子教科書についてはまさに2014年が元年といえる年になりそうだ。これについてはこの連載の第2回でまとめたいと思う。

デジタル化への組織的な対応は悩みの種

 コンファレンスプログラムを見ていくと、初日のテーマとしては、いかに変化に対応していくことが重要かを説くセッションがあり、「チェンジ」や「チャレンジ」などというキーワードが語られた。これは出版業界に向けられたコンサルタントの言葉ではあるのだが、電子書籍では先行市場である米国の出版業界でもデジタル技術によって引き起こされた環境の変化への対応、そして出版社の役割の再定義などを迫られていて、まだまだ各社とも方向感を見いだせていない状況なのではないかと感じた。「日本の出版社はアタマが固く、先行している米国や欧州の出版社はすでに戦略的に電子出版に取り組んでいる」とも一概にはいえず、出版業界の悩みは万国共通だ。
 2日目のプログラムでは巨大な電子書籍プラットホーム企業であるアマゾン社に対して、さまざまな考察をするセッションが複数用意されていた。アマゾン社は電子書籍流通の支配を強めていて、出版社は好むと好まざるとこのプラットホームに頼らざるを得なくなっている。しかも、仮にアマゾン社に不満があったとしても、他の代替となるプラットホーム(アップル社やバーンズアンドノーブル社など)がそれと比較して弱いのである。さらに、セルフパブリッシング市場が拡大し、素人の著者だけでなく、従来の方法で出版をしてきたプロの著者にとっても出版社に対する不満が蓄積されつつあるという定量調査も紹介された。まさに、出版社にとっては八方ふさがりの状況だ。
 こうしたプレッシャーを受けている出版社は自らの事業の役割があらためて問われているのだろう。コンファレンス全体の論調を通してみると、“本”というパッケージを作るだけではなく、広い意味での出版のサービス化を指向する必要があるのではないだろうか。サービスとは執筆者に対してはエンゲージメントであり、そして読者に対してはパッケージ以上の付加価値の提供という意味だ。
 2~3年前の電子書籍市場の立ち上がり時期は確かにワープロやDTPソフトのファイル形式から電子書籍のファイル形式への「変換」やアマゾンなどのプラットホームへの「配信」が電子出版の主要な課題であったが、その時代は終わった。いかに魅力的な作品になるうる素材(コンテンツや著者)を発掘したり、育成したりできるか、ソーシャルネットワークによるデジタルマーケティングを駆使して読者を巻き込む施策に取り組めるか、著者と出版社の相互利益となる深いエンゲージメントができるか、読者への高い付加価値の提供ができるかなど、いままでの出版社の活動とはまったく異なるワークフロー、組織構造、スキル、経験が必要となる。
 日本の電子書籍分野でも、今後、出版各社の取り組みが一巡したあたりから、こうした同じ問題に直面するのは間違いないだろう。

この連載の今後の予定
第2回(2月6日掲載予定):米国電子教科書の利用者動向~BISG社の調査ダイジェスト
第3回(2月13日掲載予定):HTML5を中心に多種のファイル形式へ展開するオライリーメディア社
第4回(2月20日掲載予定):展示会レポート
※内容は変更されることがあります。

DBW2014のウェブページ
http://conference.digitalbookworld.com/ehome/conference.digitalbookworld.com/166358/

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