「OnDeck提言2016 出版社の課題と対策」-日本の平均的出版社が抱えている電子出版への課題と、その対策-
「OnDeck提言2016 出版社の課題と対策」
-日本の平均的出版社が抱えている電子出版への課題と、その対策-
電子出版イノベーションのビジネス実践誌「OnDeck」の約5年間の取材や実証実験から分かった、日本の平均的出版社が抱えている電子出版ビジネスに対する課題と、その対策についての提言です。
●出版産業全体がイノベーションのジレンマに陥っており、電子出版を本格化できない
イノベーションのジレンマとは、新しいイノベーションが起きたとき、それまでの優良企業が新興勢力の前に力を失う現象だが、出版業界は電子出版というイノベーションに対してまさにそれが起きている。具体的には、売上規模が伝統的出版に対しまだ小さいので電子出版を本格化できない、電子出版では業務内容が変わるので一気に切り替えるのはリスクがあるし、両方一緒にやるのもむずかしい。
対策:
>社内に専任者による特別部隊を設置し、そこだけは別のルールで本気で取り組む。
>デジタルメディアやデジタルビジネスに強い企業と協業する。
●出版が著作権ビジネスだという認識が薄い
これまでは、紙の本が最終で唯一の目的だと思われてきた背景がある。著者と編集者の共同作業的感覚があり、出版契約書を結んでいないところもあった。そのため、出版が音楽などと同様に著作権ビジネスだという感覚が薄く、結果、二次著作物の創出が困難になっている。上記の理由で、既刊本の電子書籍化やPOD(プリント・オンデマンド)化の進みも遅い。
対策:
>いまや異論のある著者は少ないと思われるので、労を惜しまず著作権契約を進める。
●アセットとしてのマスター原稿がない
日本の出版現場では、制作業務を印刷所や制作会社に委託していることが多く、出版社がマスター原稿を管理できていない。その場合、マスターデータとしてはPDFしか持っていないか、何も持っていない。管理している場合でも、原稿は編集者(または編集部)管理になっており、アセット(資産)として会社管理ができていない。たとえば、担当編集者が辞めてしまうと、原稿がどこにあるか分からない。さらに、日本のDTPは切り貼りが多く、データが構造化されていないため、再利用が困難。具体的には、紙書籍を作らないと電子書籍が作れない、また電子書籍の改修・改訂ができない。もちろん、二次著作物の制作も困難。
対策:
>マスター原稿をアセット(資産)と捉え、人ではなく会社で管理する。
>メディア変換可能なデジタルのマスター原稿を持つ。
●消費者の読書スタイルの変化に疎い
いまでも電子書籍を、読者の立場として買ったことや、読んだことがない人がいる。そのため、電子書籍がどういうものなのか、どのように読まれているのか本当の意味で分かっていない。市場では、スマホやタブレットでの閲覧が加速しており、コミックのタテヨミなどの現象も起きている。一方、紙書籍のほうもオンラインでの購入が加速している。
対策:
>自分で使ってみる。
>周りの変化や統計資料を冷静に見渡す。
●マーケティングに弱い、ましてデジタルはなおさら
伝統的出版では印刷所>取次>書店という決まった流通ルートになっている。平台、帯、ポップなどのフォーマット化された慣習が宣伝・販促の役割を果たしており、特段のマーケティング戦術を使う必要がなかった。また再販価格維持制度のため、価格戦略を使う必要もなかった。そのため、マーケティングのためのツールやノウハウに乏しい。電子出版の場合はストアごとの交渉になり、値引きもあり、他の一般の商品と同様にマーケティングを駆使する必要に迫られる。マーケティングの基本素材になるのは書誌だが、その管理と電子化も遅れている。また、実売データの各現場へのフィードバックが不十分で、PDCAサイクルがうまく回っていない。
対策:
>書誌の電子化と充実を急ぐ。
>マーケティングに長けているアマゾンを活用する(セール施策やベンダーセントラルなど)。
>FacebookやLINEなどのソーシャルメディアをプロモーションに活用する。
●総じてIT力が不足している
出版は、日本的な表現で言えば「文系」の世界観が強いが、ITは「理系」の世界観である。そのためITの文化が分からず、いま何が起きているのか正しく認識されていない。この点に関しては、出版業界は圧倒的に遅れていると言わざるを得ない。具体的には、いまでも手書きの紙の書類で管理していたり、パソコンを使っているが、実体はコピー&ペーストだったりで、作業効率が極めて悪い。また、ITをコスト削減目的にしか使えておらず、売上増大のための戦略ツールとして使えていないので、その恩恵を受けられずに新興勢力または海外勢に比べ競争力が低下し続けている。
対策:
>ITに精通した人材を獲得する。
>IT力のある会社と協業する。
●現場任せの癖が抜けない
伝統的出版は非常によくできたモデルだったために、近年ではモデルを変えたことがなく、経営に現場(特に編集部)任せの癖がついている。電子出版は伝統的出版とはビジネスモデルが違うので、現場の部署レベルでは立ち向かえない。CD-ROMやDTPのときとは大きく異なる。具体的には、電子出版事業を行うと、編集部以外に、生産管理、法務、経理、営業などほぼすべての部門に影響があり、その調整コストが大きな問題になっている。
対策:
>経営者が自らリーダーシップを発揮する。
p.s.
出版関係者の皆さまへ
今後、OnDeckは公開メディアとしての役割から、電子出版プラットフォーム「NextPublishing」の関係者向けメディアに移行する予定です(6月より)。NextPublishingを利用することで、今回公表した出版社の「課題」の多くを解決可能です。「対策」の選択肢としてご検討頂ければ幸いです。
詳細は、以下の「NextPublishingのすすめ」(PDF)をダウンロードしてご確認ください。
http://nextpublishing.jp/pdf/NextPublishingGuidebook.pdf
以上