[編集長コラム]養老孟司氏の講演「出版は普遍的な職業か?」を聴いて
2015年7月2日 / 電子メディア雑感
きのうから、東京ビッグサイトで「東京国際ブックフェア/電子出版EXPO」が始まりました。その最初の基調講演として、東京大学の養老孟司名誉教授が「出版は普遍的な職業か?」という表題でお話されました。この魅惑的な表題につられて拝聴してきましたので、報告します。
講演は予想通りとても興味深いものだったのですが、同時に私には難解なものでもありました。養老先生の本来の主旨をまとめられる自信がないので、今回はその断片だけでもお伝えできればと思っています。
お話は、養老先生が小学2年生だった終戦のとき、皆で教科書に墨を塗ったことを今でも強烈に覚えているというエピドードから始まりました。そして、表題にある「普遍的」という言葉に際し、キリスト教の宇宙観(Universe)の話を経て、「意識は1つで人間共通」という斬新な解釈が展開されていきます。以下が、私の印象に残ったフレーズです。
・知的なものも人間共通
・知的なものは脳が作り出している
・出版は知的なもの
・知的なものへの最近の成功例の1つがネットのGoogle検索
・職業的な観点で言えば、身についたこと(手作業など)が大事
・身につけるには時間がかかるが、身についたものは失われない
・意識で扱うと世界は止まっている(脳の仕業)
・意識は自主性がない(寝ることや朝起きることは意識できない)
・(本は)売ろうと思って作ったのではなく、作ったら売れた
・本の作業は意識で行われるが、売れるかどうかは意識では制御できない
・人は考えていないときは、他の人とつながるモードになっている
・人間の脳は、大規模な集団で生活できるように進化し、大きくなってきた
・ほとんどの道具は、集団生活のために作り出されてきたもの
・意識と感覚は分けて捉えたほうがいい
・意識は感覚(ベース)から出る、感覚が豊かでないと意識(知的なもの)も貧相
・意識(知的なもの)の世界は終わらない、なので出版も終わらない
・最近、言葉が死んできている
・外で遊ぶ子供のほうが(ベースがしっかりできるので)本を読むようになる
・いままた、本に墨を塗る必要があるのでは
ご本人も言われていましたが、この講演に結論はありませんでした。「あとは自分で考えてください」という言葉で観衆の笑いを誘って、締めくくられたのでした。
・・・ならばと、自分でも少し整理してみました。
・Google的な検索はネットに知的なものを作り出した
・それは拡大解釈すれば意識、つまり脳のようなものだ
・人間には意識がある以上、知的なものは終わらない
・なので、出版的なものも終わらない
・感覚がとても大事(たとえば手ざわりや手作業によるもの)。現象を感覚として意識に伝える力が重要
・現在のネット検索は知的なものだが、人間が創り出す出版は感覚から立ち上がっているので、ネット検索とは異なる
・最近は感覚が抑制されてきていて、言えないことや書けない言葉が多くなってきた
・再度、価値観の見直しが必要ではないか
・出版には、その役割もあるだろう
以上はあくまで私の整理なので、養老先生の主旨から外れているかも知れません。読者の皆さんにも、ご自身での考察をおススメします。
インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信