[編集長コラム]企業向け電子図書館サービスに期待
2015年7月17日 / 電子メディア雑感
新興の「日本電子図書館サービス(JDLS)」と「OverDrive」が共にサービスインしたこともあり、電子図書館サービスについてのニュースが多くなってきています。
先日の電子出版EXPOでも、メディアドゥのブースで楽天、OverDriveの責任者が集い日本における電子図書館サービス戦略について詳しく説明されていました。私はその中で、OverDriveが主張している「米国では電子図書館サービスは公共図書館だけでなく、企業にも広がっている。企業向け電子図書館サービスは期待できる市場だ」という話は面白いと思いました。実際に、楽天は1万人の社員向けの「楽天図書館(仮称)」を構築するそうです。
各企業が、自社の社員や関係者のために必要と思われる本を選書し、読めるようにするのはとてもいい取り組みだと思います。電子図書館ならば、24時間いつでもどこからでも閲覧できるので、リアルの図書館より利便が向上しそうです。企業は、自分の生業やポリシーに合わせて選書することで、自社の個性を表現できる場にもなるし、社員のモチベーションも向上するでしょう。特に、専門の職種に関する専門書は一般に値段も高いし、流通量が少ないので手に入りにくいことから、これらも品揃えできれば喜ばれることでしょう。
これまでにも、自社で図書館を持ちたいという話は何度も聞いたことがあります。しかし多くの場合、その設立・運営コストが高すぎて、一部の大企業しか実現できていないのではないでしょうか。電子図書館なら物理的な施設を作る必要がなく、運営コストも下がると予想されるので、大企業でなくても実現できそうです。
ちなみに、私は企業向けの出版ビジネスをしていたことがありますが、その際にいくつかの課題を感じました。たとえば、日本の企業ではクレジットカード決済が認められていないことが多く、オンラインストアでの購入はむずかしいのです。購入する場合は、係りの購買部に依頼するか、見積もりや請求書を出してもらい後で伝票清算するという方法になり、ハードルが上がってしまうのです。電子書籍の場合は、形がないので購入証明がしにくいなどの問題もあり、さらにやっかいです。
また、日本のビジネスマンは仕事のための本を、自分の財布で買うのに消極的な印象があります(統計数字はないので私見ですが)。仕事で使う本は、会社が投資してくれるものという認識(文化)が強いということでしょう。
今回の企業向け電子図書館サービス、こんな日本だからこそ需要があるように思います。書店での出版市場は年々縮小していますが、この方式でビジネス現場での出版市場を伸長できる可能性があります。期待しましょう。
インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信