[編集長コラム]有料コンテンツを買う意味
2015年8月6日 / 電子メディア雑感
『電子書籍ビジネス調査報告書2015』(インプレス総合研究所刊)が発行されましたが、その調査の中で、有料の電子書籍の購入者が昨年より3.1%増えて13.5%になったという報告がありました。これは喜ばしいことだと思います。
有料コンテンツを買う意味については、前に、学生さんの集まりで自論を話したら、とても感心されたことがあったので、今日はその話をします。
インターネットが登場して以来、Webを中心にデジタルコンテンツの多くが無料になってきました。おかげで、金銭負担がなく、いつでも様々な情報にアクセスできてとても便利だし、その恩恵も大きいと思います。
しかし、無料のコンテンツは自分だけでなく誰もが容易にアクセスできる、ということを意識しておく必要があるでしょう。つまり、無料で公開されている情報は公知のものだということです。そこに書かれている情報は知っててあたり前、特に威張れるような情報ではないということです。
そもそも無料ということは、誰かがそのコストを負担しているから実現しているのです。それは、(行政からの情報やWikipediaなどのボランティアによるコンテンツを除けば)大方は企業によるものです。それらは、コストを負担している人の意図の上に成り立っています。つまり、企業の意思や思惑の中でコンテンツを見せてもらっているということになります。
企業側の視点で見れば、最近ではターゲティング、オウンドメディア、コンテンツマーケティングなど様々なマーケティングロジックが編み出されており、コンテンツによって商品を売る手法も盛んです。無意識でいると、まんまと乗せられているかも知れません。
一方、有料コンテンツの場合はお金を払うというハードルがあるので、それ自体が(内容の良し悪しに関わらず)差別化になっています。そして、コスト負担をしているのはあなたです。つまり、公知の情報ではなく、お金を払った人だけが情報を得られ、そうでない人との情報差が発生するのです。情報が増え、無料コンテンツが増えれば増えるほど、この差は重要な意味を持つと思うのです。お金を払うのは損と考えて皆と同じ情報の中に居るか、お金を払うだけで皆とは違う情報を得られると考えるかの違いです。
いまや、書籍は、情報単位で値付けされている唯一の商業メディアになりつつあります。Webはほとんどが無料だし、新聞はネットニュースに置き換わっているか、ネットメディアによって再編されています。また、雑誌も数が少なくなっているし、広告主導の色彩が強くなっています。サブスクリプション(定額読み放題)という新手のモデルも台頭していますが、この場合は情報単位ではなくグロスでの購入になります。自分が必要とする特定の情報を有料で取得できるのは、パッケージ商材である書籍のいいところだと思えます。
別の視点ですが、本はもっとも安い自己投資だとも思います。何かを勉強しようと思ったとき、本なら数千円の投資で済みますが、セミナーや学校に通うとなると数万円以上、もし個人レッスンを受けようとすると数十万円になってしまいます。
ちなみに、株の投資ではインサイダー取引は規制されていますが、自己投資ではインサイダー取引が許されます。つまり、自分で頑張ると心の中でこっそり決めて、それについて投資するのは自由だと言うことです。そのことは公にならず、誰も知らないあなただけの有用な情報です(インサイダー)。そして、結果のリターンは独り占めできるのです。有料の本は、この自己インサイダー投資の商材としてとても有効だと思うのです。
さあ、有料のコンテンツを買いたくなってきたでしょうか。
インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信
(次回は8月20日の掲載になります)