[実証実験]回転する記号(舞台裏 第6回)

2015年11月5日 / 実証実験レポート

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 第2回で、縦横問題について書きましたが、電子書籍で横書きを縦書きにするときに直面する問題のひとつが記号類です。横書きの原稿では、頻繁に「<」(全角の小なり記号、U+FF1C)を括弧の代わりに使ったり、全角、半角のコロン、セミコロンを使ったりします。また、これは縦でも変わりませんが、丸囲み文字(①、Ⓐなど)が使われていることがあります。これらの記号類が縦書きになると、著者、編集者が意図しない方向で表示されることがあります。いわゆる縦書きの文字の「正立」問題です。ガイドラインもありますが、電子書籍ビューワによって表示結果が違うので、商品になったときに正しく表示されるかどうかは実際に販売するストアのビューワで確認するのが一番です。

 今回書籍化する原稿中には、「この流れを説明すると、「超原稿用紙>(変換)>EPUB>(自動組版)>PDF>(発注)>POD書籍>(配送)>書店」、というプロセスです。」という一文がありました。全角の大なり記号を使って方向を表しています。横書きなら問題なく表示される表現です。縦書きにした場合は、折れ曲がっているところが下に向けば、正しく意味が伝わります。そこで、NextPublishingの手法を用いて超原稿用紙からEPUB、KF8(Kindle Format 8)、PDFにして確認してみました。NextPublishingでは、個々の文字に正立を指定するCSSの表記はしていません。このような表示確認を行う場合、私はまずは身近なビューワで確認した後で他のビューワで確認しているため、メインマシンであるMacでEPUBはiBooks、KF8はKindle Previewer、PDFはAdobe Acrobatで表示させてみました。すると、EPUBとKF8では折れ曲がり部分が下に向いて表示されましたが、PDFで横書きのままの方向で表示されることがわかりました。PDFにフォントは埋め込まれているので、フォントにより方向が変わっているということもありません。

iBooksとKindle Previewerで表示させた様子。

iBooksとKindle Previewerで表示させた様子。

 これがPDFだけの問題ならば、自動組版プログラムを変更して向きを変えることは簡単にできますが、大なり記号は横書きで使われる想定で作られているためこのような表示になっているのだと思います。それは、ビューワによっては、PDFと同じ表記になる恐れがあるということです。そこで、著者に了承を得た上で、「→」(右向きの矢印、U+2192)に変えて表示結果を確認しました。iBooksでEPUB、Kindle PreviewerでKF8では矢印が下を向いていて問題がありませんでした。PDFでも、意味通りの方向に向いて表示されたので、次は様々なビューワで表示させてみます。

大なり記号は向きがおかしくなりましたが、矢印は正しく表示されました。

大なり記号は向きがおかしくなりましたが、矢印は正しく表示されました。

 販売するストアが事前確認用に推奨しているビューワで確認することは当然ですが、NextPublishingで新しいHTML5のタグやCSSの表現を使うときにはそれ以外のビューワでも表示テストをしていたので、それらのビューワで確認しました。ビューワもデバイスのOSも日々アップデートされます。各デバイスによってフォントも違うことがあります。また、電子書籍はストアにおさめた後、販売前にストア側でビューワに適したフォーマットに再変換することがあるので、読者が読むのと同じ表示を完全に担保することは難しいのですが、いつもできるだけ最新のバージョンで確認するようにしています。今回は次のビューワで確認して、縦書きがうまく表示できないWindows、MacのGoogle Playブックスを除いてPDFと同様の表示になることがわかりました。一安心です。

  • Kindle:Kindle Previewer Intel Mac (OSX 10.7 以上) 用、Kindle Previewer Windows (7 以上) 用、Kindle for Android、Kindle for PC、Kindle for Mac、Kindle Paperwhite、Kindle Fire、Kindle for iOS
  • iBooks:iBooks(Mac版)、iBooks(iOS版)
  • Kinoppy:Kinoppy for Mac、Kinoppy for Windows、Kinoppy for iOS、Kinoppy for Android
  • Kobo:楽天Koboアプリ for iPhone/iPad/iPod touch、楽天Koboアプリ for Android、kobo Touch
  • Google Playブックス:‎Google Playブックス(Chrome(Mac版)アプリ)、Google Playブックス(Chrome(Windows版)アプリ)、Google Playブックス for Android、Google Playブックス for iOS
  • Sony Reader:Reader for Android
  • honto:Android向けhontoアプリ
  • Readium:Readium(Chrome(Mac版)アドイン、Readium(Chrome(Windows版)アドイン)
  • Adobe Digital Editions:Adobe Digital Editions for Mac、Adobe Digital Editions for iOS

(Adobe Digital Editionsは、バージョン4以上が出ていないものは除いています。OS、ビューワのバージョンは省略します。)

 この問題は読者の人が自分で読みやすい環境を選べるという特徴だからこそだと思います。印刷する場合は、誌面に文字を固定させることができますが、リフローの電子書籍にはそれができません。しかし、読者の人に選択肢が増えるところが電子書籍の魅力だと思います。あとは、原稿の修正で新しい特殊な記号が使われないことを願うばかりです。

(OnDeck編集部 細谷)

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