[編集長コラム]情報を使う極意「インタースコア」
2016年1月15日 / 電子メディア雑感
編集工学研究所長の松岡正剛さんが、『インタースコア』(松岡正剛&イシス編集学校著、春秋社刊)という本を書かれました。532ページにも及ぶこの本は、松岡さんが2000年に開校された、知る人ぞ知るイシス編集学校について初めて開陳された書なのです。松岡さんと言うと、本の大家というイメージがあると思いますが、本書にはTED創始者のリチャード・ワーマン氏のメッセージが寄せられていることからも、出版や編集関係者向けのものではなく、広く社会性を持ったものだということが分かります。
イシスは、まだソーシャルメディア(SNS)も登場していなかった頃に、「方法の学校」という、時代を思いっきり先取りしたキャッチフレーズで開校したネットスクールです。「インタースコア」という言葉は耳馴染みがないと思いますが、松岡さんが考案された言葉です。英語では “Inter Score”、日本語では「相互記譜」。イシス編集学校の英語訳が “ISIS:Interactive System of Inter Score” なので、インタースコアはそれを貫いているキーコンセプトというわけです。
その解説を本文から引用させていただくと、『インタースコアとは、二つ以上のスコアに注目して、これらを「あわせ・かさね・きそい・そろい」にもちこんでみる編集方法のことである』、とあります。おそらく、松岡さんの本を読んだことがない方には何のことだか分からないですね。本書にはさらに、こんな言葉やフレーズが並びます。
「わかる」は「かわる」、「かわる」は「わかる」。
「方法はコンテンツ」、「方法の時代」、
「コード(素)とノード(結)とモード(様)」
「メッセージ・メディア・メソッド」
「ルール・ロール・ツール」
「乗り換え」「着替え」「持ち変え」
「かまえ/はこび/ほど」
「ふるまい・もてなし・しつらえ」
コンティンジェント、コンティジェンシー
・・・
いよいよ分からなくなったかも知れません。でも、何だかやけに知的好奇心をくすぐる言葉たちではないでしょうか。これらには、松岡さんが長年の研究からたどり着かれた、「情報」、「編集」、「メディア」、「日本」などの形や法則、そしてそれを「使う」場合の方法が秘められているのです。
これらがそれぞれどういう意味で、どんな関係性を持っているのかは本書を読んでもらうしかないのですが、近年の日本の閉塞感がどこからもたらされているのか、それを打破する方法とは何かのヒントが、いたるところにちりばめられています。昨今はやりのビジネスハウツー書のように、すぐ答えが書いてあるようなものではなく、読者もまた自分で考察や編集しながら読み進むような「しつらえ」になっています。
私は2度読んでこの紹介文を書いていますが、申し訳ないことに、まだ消化はできていません。しかし、本書を読むビフォーとアフターでの違いは実感できています。私の場合は、日本とデジタルとの関係性に気づきがありました。扱われているテーマは普遍的なので、どんな業種の方にもヒントがあることは請け合います。
グーグル検索ばかりでなく、たまには「思考のリスク」をおかして、その先の知の冒険に出てみてはいかがでしょう。
『インタースコア』特設サイト
http://es.isis.ne.jp/interscore/top.html
インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信
※この連載が書籍になりました。『赤鉛筆とキーボード』
http://nextpublishing.jp/book/6865.html