[実証実験]電子書籍を印刷書籍に~NextPublishingの新たな取り組み
2015年2月17日 / 実証実験レポート
NextPublishingは、超原稿用紙と呼ばれるWordファイルを元にして、電子書籍と印刷書籍を同時に作成できるのが特徴です。では、既存の電子書籍を元に印刷書籍は作成できるのでしょうか? 今回はその取り組みについて紹介します。
PHP研究所の電子書籍をPOD化
2月9日より販売を開始した加藤諦三青春文庫(PHP研究所)は、NextPublishingにとってチャレンジ企画でした。
この加藤諦三青春文庫は、1970年代に出版された書籍をPHP研究所が電子書籍化したシリーズです。PHP研究所は電子書籍の発行に積極的に取り組んでおり、この加藤諦三青春文庫もそのひとつで、絶版本を電子書籍化したものです。ポイントは、ほかの出版社が発行した書籍を底本とし、PHP研究所が電子書籍化したという点です。つまり、印刷書籍のデータはPHP研究所は保有していなかったのです。
今回、この加藤諦三青春文庫をプリント・オンデマンドを利用し、再び印刷書籍として流通することになったのです。

今回販売を開始した7タイトル
構造化されていないデータからの変換
電子書籍の加藤諦三青春文庫を、印刷書籍に変換するのは意外に大変でした。NextPublishingが得意とするのが、構造化されたXHTMLファイルからの変換です。見出しであるとか、字下げ段落であるといった構造が明確に記述されているファイルであれば、比較的変換は容易なのですが、いただいたEPUBファイルはそのような構造化された情報が入っていなかったのです。見出しに相当する段落は、本文の文字サイズよりも大きめに定義されているにすぎないのです。
電子書籍を古くから作成されている方であればご存じでしょうが、ドットブックやXMDFでは、見出しを表現する際に文字サイズを大きくするといった作り方が一般的でした。早くから電子書籍化に取り組んでいたPHP研究所も同様で、加藤諦三青春文庫はその方式で作られていたのです。NextPublishingで印刷書籍を作成するには、なんらかの方法で構造化されたファイルに変換する必要があったのです。
幸い、PHP研究所ではT-Time形式のHTMLファイルをマスターファイルとして保管していたため、T-Timeファイルを構造化していく作業を行いました。完全自動化には至らなかったのですが、7タイトルを約半日で変換しました。構造化されたXHTMLに変換後は、プリント・オンデマンド向けのPDFに変換するのは簡単で、10分程度で7タイトルの入稿用PDFファイルを作成しました。
電子書籍には存在しない背表紙も作成
電子書籍から印刷書籍を作るにあたって課題となったのが「背表紙」です。電子書籍には表紙のイメージファイルは用意されていますが、背表紙という概念がありません。つまり、データとしても存在していなかったのです。
今回は、NextPublishingで開発した「背表紙ジェネレータ」を用いて、各タイトルの背表紙を自動生成しました。この背表紙ジェネレータは、タイトル・サブタイトルと著者名の文字情報を読み込むことで、書籍の厚さに応じて文字サイズを自動調整する機能を持った表紙ファイル作成ツールです。秀英明朝や見出しゴシックなど、さまざまな書体を使えるほか、背景画像を差し換えることで、さまざまな背表紙を作成できるのが特徴です。このツールがあったおかげで、電子書籍から印刷書籍を作成する大きな助けとなりました。
絶版本や増刷未定の書籍はたくさんあります。今回のように電子書籍にしたものの、印刷書籍への道筋がついていないタイトルをお持ちの出版社は、この事例を参考にプリント・オンデマンドを活用して再度印刷書籍として流通してみてはいかがでしょうか。
PHP研究所「加藤諦三青春文庫」
編集部