[編集長コラム]組版の価値

2015年4月16日 / 電子メディア雑感

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 電子書籍を作っていると、これまでの紙の書籍ではあたり前だと思ってきた諸々のことの意味や価値を改めて認識できることがあります。よく言う、「失ってみて分かるありがたみ」のようなものです。
 「組版」は、その最たるものでしょう。
 電子書籍、特にリフロー型のEPUBでは組版機能が大きく制限されることになります。正確に言うと、EPUB3の規格では定義されていても、現在利用可能な各EPUBビューワですべての規格が実装されているわけではありません。実際にビジネスに利用する場合は、どれか1つでも実装されていない機能があればそれに合わせざるを得ず、最少公倍数をとる形になり狭まるのです。
 現在、EPUBでできる主な組版機能は以下の通りです。
 ・見出し/強調/インデント/ルビ/縦中横/キャプション
 ・脚注/表組
 (ただし、脚注は表現力不足だし、複雑な表は組めません)
 

 逆に、EPUBで表現できない組版機能には以下のものがあります。
 ・縦横混在/索引/多段組/見開き処理
 ・絶対的な位置指定を伴うもの
 

 たとえば、多段組は1ページに入る文字量を大きくしつつ、1行の長さを短くして読みやすくするために使われてきました。また、「右上の写真を見てください」などのように、絶対的な位置を前提にした情報配置は紙の書籍ならではのものです。このように組版は、出版の永い歴史の中で鍛えられてきたもので、情報を二次元平面に効率よく配置するのに大いに貢献してきたというわけです。そう思うと、これまでデザイナーや制作者に払ってきた対価は正当なもので、感謝しなければならないでしょう。
 また、いまの電子書籍では索引が実現困難ですが、大量情報を扱う辞書やリファレンスものなど、これができないと価値が減少してしまう本が確かにあると思います。これらが必要な企画の場合は、無理せず紙の本で出版するか、EPUBのフィックスド形式で出すことを考えるべきでしょう。
 しかし現在のリフローの組版機能でも、企画の本質に影響を与えないものもかなりの範囲に及ぶと思います。文庫、新書、ビジネス書、(複雑な要素がない)実用書や専門書などは十分表現が可能です。要は、いまのリフローで実現できる組版機能を知り、その範囲の中で企画を選び、表現方法を選ぶということではないでしょうか。
 でもなぜ、組版レベルの下がった電子書籍をわざわざ使う必要があるのか、それはこのコラムで何度も触れてきましたが、電子書籍には紙の本ではできない様々な利便があるからです。ただし、その利便は作り手にとってのものではなく、「すぐ買える」「どこでも買える」「安く買える」など消費者にとっての利便に集中しています。
 ちなみに、DTPが登場してきたときは、「安く作れる」「すぐ作れる」「なんでも作れる」など作り手にとっての利便に集中していました。この違いが、出版現場のDTPと電子出版の受け入れの差になっていると思われます。
 温故知新-古きを訪ねて新しきを知る、電子出版はこの諺が似合うテーマだと思います。
 

OnDeck編集長/インプレスR&D 発行人 井芹 昌信

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