非営利ジャーナリズムの楽観論

2013年6月17日 / ニューススタンド

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text:林田陽子

ノンプロフィット・ジャーナリズムの実態調査が発表された。既存ニュース媒体が後退する中、多様なテーマのニュース・アウトレットが台頭。運営者たちは少規模、小収入ながら今後の見通しにはきわめて楽観的だ。このようなニュース・アウトレットはマスメディアに代わる地位を確立できるのだろうか?

この「Nonprofit Journalism — A Growing but Fragile Part of the U.S. News System」はメディア関連の各種調査を行うPew Research Centerの「Project for Excellence in Journalism」の一環として実施された。
ノンプロフィット・アウトレットとは、営利を目的としないニュース媒体で、利益がでたら運営組織そのものに再投資する。今回の調査は全国的に有名なアウトレットからごくローカルなものまで172件をピックアップして行った。その半数は2008年の景気後退以降に設立されている。
大学のジャーナリズム学科や地域の基金が運営するものから、個人運営までさまざまだ。テーマも特定の地域の調査報道、健康や安全に関する情報提供、グローバルな環境問題まで多岐にわたる。
これらのサイトに、掲載しているコンテンツ、資金、運営スタッフなどについて質問した。

地域の調査報道を重視

新興アウトレットの多くは新聞その他の既存ニュースメディアの代替や模倣ではなく、それらが報道しないギャップを埋めることを目的としている。大半のアウトレットは取材対象を州や都市に絞っている。全米で9州を除く全州に最低でも一つノンプロフィット・アウトレットがある。
大手メディアの従来の報道を補完する、よりニッチな記事を報道する傾向が強く、21%が調査報道記事だ。
非テキストコンテンツをあまり掲載しない傾向もある。データベースやビデオをサイトに掲載しているのは約4分の1だった。
スタッフはいずれも少人数だ。回答者の4分の3が正規雇用スタッフが5人以下で、26%は1人もいない。一般的にボランティアが主力で、社員の数を上回る例が多い。だが、90%近くのアウトレットが、今後1カ月でスタッフを増員して組織を今後拡大あるいは維持できると予測している。

財政的に不安定でも将来を楽観視

こうしたニュース配信形態の不安定な点は収入が少ないことだ。収入に関する質問に回答した77件のうち2011会計年度の収入が50万ドル以下が55件、100万ドルを超えたのは14件だった。収入を交付金に依存しているアウトレットは4分の3に上る。その他の収入源は多い順に個人の寄付、広告/スポンサーシップ収入、その他の収入源、イベント関連収入、提携メディアからの支払いとなっている。
非営利団体という性格上、ビジネス面にあまり注力していないという側面があるという。
同調査は、驚くべき点として、アウトレットの規模や収入額に関係なく、全体的に将来を楽観視している雰囲気があること指摘している。その理由は「財政的な安定は非営利ニュース・アウトレットが今後存続していくために必要不可欠ではないという感覚が編集者や責任者の間にあるため」と分析している。
同調査は「ノンプロフィット・アウトレットは拡大していて重要な情報源になる可能性があるが、商業ジャーナリズム同様、財政的な問題に直面している」として、長期的な運営能力を備えていないと指摘している。
コアなテーマに絞っているアウトレットは、そのテーマに関心のある読者を引きつけられると思われる。今後はこのようなメディアをさまざまな組織や大学、個人の支援金で運営する方式が一般的になっていくかもしれない。

参考
「Nonprofit Journalism — A Growing but Fragile Part of the U.S. News System」調査の紹介ページ
http://www.journalism.org/analysis_report/nonprofit_journalism

林田陽子:翻訳家、司書。1978年、慶應義塾大学文学部卒業。同大学日吉情報センター、日経マグロウヒル(現日経BP社)、アスキーに勤務。1986年より翻訳業に専念。2010年6月から、ジェリー・パーネル氏の「Computing at Chaos Manor」をScience Book Clubにおいて、Web閲覧方式とEPUBファイルダウンロード方式で販売中。

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